ラテン語の発音について


ミサ曲は通常「ラテン語」で書かれている。殆どの場合これを日本語で歌うことは無い。
合唱の原点でもある教会音楽のミサ曲は、どうしても原語で歌うことが避けられない。
そこで、いつでも思い出すことが出来るように、原語たる「ラテン語」の発音について
ここに記しておくことにしました。


●どの発音で歌うか
   ミサ曲を教会で歌う場合のラテン語の発音は、国・地域、時代によって様々である。
   ラテン語教本や大学で教えるラテン語は多くの場合「古典式」発音を教えているようで
   あるが、これはラテン語の典礼や聖歌が生まれる以前のものなので、歌唱では殆ど
   使われない。中世に各国や地域に発音が分化し、バラバラ発音の時代が長く続いた。
   19世紀後半になって、カトリック内の発音がイタリア風への統一が進み、20世紀初頭、
   「イタリア(教会)式」発音が強く推奨され、現在ではこれが最も広く発音されるように
   なった。しかし、各国各地の発音も長い伝統があって、完全に統一的発音になって
   いるわけではない。その代表が「ドイツ式」と「フランス式」発音である。
   ではどの発音で歌うのが正解か?「頭で考えれば」下記3つの選択肢が浮かぶ。
      @ カトリックの方針に従ってイタリア(教会)式で歌う。
      A 演奏家の国・地域の発音で歌う。
      B 作曲家が企図した姿を目指し、時代・国の発音を再現して歌う。
   これらの選択に関しては、様々な研究が行われているようだが、どうやら研究者の
   趣味に終わっている、といったところが実情のようである。

   【結論】以上の実情に鑑み、私の結論的提案は次の通りです。
      ・一つの曲は一つの方式で統一した方式の発音で歌う。
      ・作曲者や編曲者などの特段の指定が無い限り「イタリア(教会)式」で歌う。


●イタリア(教会)式発音
  ラテン語の発音は原則「ローマ字読み」です。
  ローマ字読みと違うところ・注意を要するところを下表に示します。

  <表記法についての特記>
    ・発音記号がパソコンに無いので、すべてカタカナorひらがな で表記。
    ・カタカナ表記の[ラリルレロ]:[l]の発音(エル)
            [らりるれろ]:[r]の発音
    ・ヂャヂヂュヂェヂョ:破擦音[チュ]の有声音(舌が上前歯の歯ぐきにつく)
    ・ジャジジュジェジョ:摩擦音[シュ]の有声音(    〃     つかない)

文字

発 音

      例 語     
c ・母音[a ア][o オ][u ウ]と子音の前では、[k ク]
・母音[e エ][i イ]の前では、[t∫ チ]
・但し、ecce[エッチェ] hoc[オック]
・Sanctus[サンクトゥス]
・pacem[パーチェム]

sc

・[a ア][o オ][u ウ]前では、[sk スク]
・[e エ][i イ]の前では、[∫ シュ]
・scabellum[スカベルム]
・suscipe[スゥシペ]
・descendit[デシェンディット]

xc

・[a ア][o オ][u ウ]前では、[ksk クスク]
・[e エ][i イ]の前では、[k∫ クシュ]
・excelsis[エクシェルシス]

ch

・[k ク] ・christe[クりステ]
・melchisedech[メルキセデク]

g

・[a ア][o オ][u ウ]と子音の前では、[g グ]
・[e エ][i イ]の前では、[dз ッヂ]
・ergo[エるゴ]
・agimus[アッジムス]
・virgine[ヴィるヂネ]

gn

・[んニュ]  ・Agnus[アーんニュス]
・Magnificat[マんニフィカト]

gli

・[gli グリ] ・gliscere[グリシェーれ]

h

・下記例外以外は、発音しない。
・例外:「mihi」(私に)[ミキ]
    「nihil」(何も無い)[ニキル]
・Homo[オモ]

i

・母音として使われる場合は、[i イ]
・半母音として使われる場合は、[j ヤ,ユ,ヨ]
 但し、半母音は後に
j が使われるようになったので注意!
 

j

・半母音[j ヤ,ユ,ヨ] ・Jesu[イェーズゥ]
・Jerusalem[イェるーザレム]

k

[k ク]
・ラテン語で
k の文字を使うのは下記の2語だけ。
  「Kalendae」(一日『ついたち』)[カレンデ]
  「Karthago」(カルタゴ『地名』)[カるタゴ]
  「Kyrie」は本来ギリシャ語であります。
 

ph

・[f フ] ・Prophetas[プろフェタス]

q

・必ず「qu+母音」の形で使われ、[kw]で発音。
  「qui」[クウィ]、「que」[クウェ]、「quo」[クウォ]
・Qui[クウイ]

s

・原則サ行の[s]
・「母音+
s+母音」の時、やわらかく濁る[z]
・Miserere[ミゼれれ]
・Hosanna[オザンナ]

t

・原則タ行の[t](但し、タ,ティ,ツ,テ,ト)
・「
ti+母音」の時、[tsi ツィ]になる場合あり→次項
・tibi[ティビ]

ti

・「ti+母音」の時の原則は、[tsi ツィ]
・例外1:
s,t,xの後では、[ti ティ]
・例外2:特定の単語で、[ti ティ]
      「prophetia」(予言)[プろフェティア]
      「tiara」(女性の冠)[ティアら」
・Gratias[グらーツィアス]

th

・[t] 英語の[θ]ではないので注意。 ・Sabaoth[サバオト]

u

・[u ウ]
・古い時代には
v が母音[u]と半母音[w]を兼用していたが、
 後に母音[u]は
u に、半母音[w]は v になった。
 

v

・[v ヴ]
・古い書き方の時は、
u v かを見分ける必要がある。
・Virgine[ヴィるヂネ]

w

・この文字はラテン語では使わない。  

x

・[ks クス] (濁らない) ・examine[エクサミネ]

y

・[i イ] ・Sibylla[スィビラ]

z

・[dz ッヅ] (破擦音です) ・Lazarus[ラッヅァるス]

ae

・母音[e エ]と同じものとして扱う。 ・Caesar[チェーザる]

oe

ae に同じ。 ・poenitebit[ペニテビット]


【参考文献】
1.三ヶ尻正著 潟Vョパン発行 『ミサ曲ラテン語・教会音楽ハンドブック』
2.高橋正平著 潟Vョパン発行 『レクイエム・ハンドブック』
3.田中秀央編 褐、究者発行 『羅和辞典』